垂玉温泉 瀧日和

2021

木造 平屋建て
設計監理 
堺武治建築事務所
坂本達哉建築設計事務所
施工会社 lives
写真 平林克己

阿蘇五岳の1つ、烏帽子岳の中腹に流れ落ちる「金龍の瀧」。その滝壺に沸く温泉を利用し湯治湯として約130年前に始まったのが垂玉温泉です。2016年の熊本地震及び翌年の豪雨による土砂災害により滝壺周辺や旅館は甚大な被害を受けて休館。その災害で大浴場以外のほとんどの建物は解体せざるを得ない状況となる中、泉源から温泉が湧き続けている事を知った建て主は再開を決意。心身共に大変な苦労の中、5年の歳月を経て、2021年4月16日(熊本地震の発災日)に復活。「垂玉温泉 瀧日和」として再スタートされたのが今回の施設です。お客様の安心安全を第一に考え、旅館は作らず日帰り温泉として再開されました。予算も限られ、グループ補助金を利用できる期限も迫る中、最低限の施設として、本館・貸切風呂(3室)・蒸し釜棟を新築し、大浴場・かじかの湯・炊事棟を改修する事となりました。施設全体のデザインとしては、軒高を低く抑え、シンプルなデザインにし、アースカラーとすることで大自然に馴染む建物になるよう意図しています。また、ご来場されたお客様に目の前の自然をより感じていただく為、建物の存在よりも大自然に目が行くよう、目立たない落ち着いた建物になればと思い設計しています。各建物には大きな窓を設け、室内に居ながらも自然を感じられるようにし、温泉施設では浴槽から金龍の瀧が眺められるようにしています。さらに敷地の高低差を活かし、木々に囲まれ自然と一体となれる露天風呂を作っています。また強力な地熱を利用し、お客様自らが蒸し料理を作れる蒸気釜を屋外に作ったり、噴き出ている蒸気をそのまま見せたりして、温泉と地熱という大地の恵みを感じられるような施設にしています。このような自然や温泉を満喫でき、心身共に安らげる空間を演出することで、人々が集い、地域のにぎわい創出や魅力につながればとの想いを込めて設計を行いました。
130年の歴史の中で、これまで何度も災害による壊滅的な被害を受けてきた垂玉温泉。その都度多くの人々の想いや尽力で復興し、温泉としての燈火は守られてきています。その燈火をこれから先もずっと守っていきたいという施主の想いが形になった日帰り温泉です。章
金龍の瀧の袂に、湯治湯の原点に帰った日帰り温泉としての新たな一歩の始まりです。ずっと人々に愛される施設になることを願っています。(文章 堺武治)